はみ出し小話―占い②

図書館についてから早速DVDコーナーを見てみました。

ずらりと並んでいるとは言っても、小さな図書館ですからせいぜい50作品ほどです。けれども、私にとっては夢の空間です。

 

さて、何にしようかと思ったところではた、と手が止まりました。ここの図書館はDVDについては一週間しか借りられないのです。

はたして、その期間内に自分が映画を見ることができるのか…?

そう思うとまた内定のことだとかで頭がいっぱいになり、すっかりブルーになってしまいました。

 

この気持ちを払拭するためのお出かけなのに…

気が落ち込んだままDVDコーナーを後にしました。

 

すぐにでも帰ろうかと思いましたが、少しゆっくりしようと備えられた椅子に腰を下ろしました。あたりを見回すと、他に5人ほどが座っていて、若い人はイヤホンを耳にしながら本を読んでいました。

 

私は本を読む気にもなれず、スマホを取り出して適当に眺めていました。

すると、私の耳にかすかな音楽が入り込んできました。

よくよく聞くとそれはエルトン・ジョンの『Your Song』でした。

何事かと思って音のしたほうを向くと、私から少し離れたところに座っている人のイヤホンから音漏れしていたものでした。

 

音漏れは基本的にマナー違反で迷惑なものですが、その時代の洋楽が好きな私には大歓迎でした。その音量もBGM的に程よく、邪魔にならない程度だったので、周りの人も止めようとはしませんでした。

 

クイズに答える感覚でしばらくその音漏れという名のBGMに浸っていました。全部はわからなかったけど、少なくともベット・ミドラーの『Rose』とベン・E・キングの『Stand By Me』はわかりました。過去には何度も聞いていた曲だったので、懐かしい気持ちで胸がいっぱいになりました。

 

ああ、そうか。

感無量と呼べるかはわからないけれど、確かな幸福でした。

占いといったって、当たるとも叶うとも限りません。

予想だにしないことがいい形で現れたら占いは効果を発揮したといえるものです。

期待いていたよりもずっとささやかでしたが、まだ就職活動を終えていない自分にとってはこのくらいがちょうどいいのでしょう。

ほんのりとした幸せに満たされた私は図書館を出ようと椅子から立ち上がりました。